2011/8/5

カービングナイフが生み出すアートの世界

彼がカービングナイフを握ると、スイカやメロンの表面に美しい花が彫りおこされる。
ホテルインターコンチネンタル 東京ベイ「ブルーベランダ」アジア料理担当シェフのサナンコン・ピチェット氏の願いは、料理人がフルーツカービングを仕事に生かせるようになることだ。

スイカの赤、緑、白を生かしたサナンコン・ピチェット氏の作品
スイカの赤、緑、白を生かした
サナンコン・ピチェット氏の作品
サナンコン・ピチェット
サナンコン・ピチェット

サナンコン・ピチェット
フルーツカービングのプロフェッショナル
ホテルインターコンチネンタル 東京ベイ
「ブルーベランダ」アジア料理担当シェフ

僕の心の中のイメージを相手に伝えて喜ばせたい

 カービングを始めたのは、小学生の時です。学校の授業でカービングの時間があり、フルーツや野菜で花をつくりました。まじめにやっていたら、15校が出場したコンクールで優勝しました。その時は3時間かけて、ハスの花を彫ってブーケのように刺した作品を作りました。その後、5年生まで優勝しました。料理は11歳から始めて、調理師学校の高校に行き、16歳の時に自分の店を持ちました。学校が終わってから店を開けて、先生や友達や可愛い子に(笑)、カービングを彫ってあげると常連さんになってくれたのです。
 

 20歳で来日し、バンコクキッチンのシェフ、丸ビルのマンゴーツリー東京を経て、24歳でホテル インターコンチネンタル 東京ベイに入社しました。16歳から28歳の今日まで12年間ずっと料理関係でやっています。「おいしい」と何回も食べに来てくれるお客さまに、サービスでメロンやイチゴを彫ってお渡しすると「こんなのどこの店でも食べたことがない」と喜んでもらえます。その言葉を聞くと、料理人という仕事も、カービングも、死ぬまで絶対に辞められないという気持ちになります。

 カービングは、人を喜ばせるもの。カービング作品をもらって、悲しい人、嫌な人はいません。以前、料理がなかなか出なくてイライラしていたお客さまにカービングを彫って渡したら、怒りがおさまって、笑顔で「ありがとう。ごちそうさま」と言ってくれました。

 料理は、見た目が大事です。デザートや飲み物に添えるフルーツをカービングして飾ったらお客さまが喜びますし、野菜をカービングして、炒めたりボイルしたりすれば、お客さまは「こんな料理が食べられるんだ」と感動します。

 料理人には、お客さまを大事にする気持ちを持ってもらいたいのです。サービス担当者がお客さま同士のお話を聞いていて、誕生日や記念日だと知った時、サプライズでケーキの上にフルーツカービングを載せて「おめでとうございます」とお席にお持ちしたら、「今までの誕生日の中で一番嬉しかった」と目を輝かせてくれたこともあります。それがまた次に来てくれるきっかけにもなる。料理人たちは、そこまで頑張ってもらいたいです。庖丁はまな板の上だけで使うのではなく、切り方はもっと一杯あるのです。

カービングが一つの仕事として確立してほしい

東京都司厨士協会の港支部で、フルーツカービングの講師を依頼された時は、人に教えたことがなかったので、緊張しました。でも皆さんが続けて参加してくれることに深く感謝し、皆さんのやる気に応えたいと思ってやって来ました。最初は面倒かもしれないけれど、心がついてきたら面倒ではなくなって、次から次へやりたくなります。仕事にも使えるし、楽しくなるはずです。

 カービングを見た人は「きれい!でも私には無理」と言いますが、やっていないからできないだけで、私にはできないという気持ちは持ってほしくないです。できた時は自分の心も喜んで来ます。ですから、私は、その人が一つできたら褒めます。褒められると倍の力が出て、次もやりたいと思うからです。途中で止めてしまったら、僕も悲しいです。大事な人に、花1個をプレゼントしたり、メロン1個を綺麗に彫れるくらいまで続けてほしいです。

 皆さんには、レベルを作ってプロになってほしい。プロになったら資格やメダル授与もしたい。やりたいことはたくさんあるけれど、僕の力だけではできません。いずれは東京都司厨士協会でコンクールを開催できるようになったら良いと思います。一つのものを皆で楽しみながら、お互い協力できる関係を作っていきたい。そんな輪が広がると、生きがいができます。

 東京都司厨士協会の全会員にカービングを覚えてもらい、楽しいだけでなく、仕事にも結びつけて、カービングが一つの仕事として確立してほしいです。また、小学生にボランティアで教えたいです。ホテルの中にカービングセクションができて、いずれ子どもたちがそこで働くという夢を持ってくれたら良いですね。



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