2012/4/20
宮川輝雄 50万本のマグロを見てきた
三崎漁港『マグロ目利き』のプロフェッショナル
故・出口忠則さんとの出会い
- 宮川輝雄
三浦半島の宮川町、マグロ屋の三男として生まれ、子供の時から父親の下でマグロとともに育った。だから、何も疑わずにごく自然にこの道へ入り、31歳の時に一人前の「目利き」として独立した。しかし、独立したばかりの頃、意気盛んにセリ場を闊歩していたある日、皆からは校長先生と呼ばれているあるおっさんに「バカヤロウ!こんなマグロを売っていたらお客さんが逃げていくぞ!」と一喝された。父親とも親しいその校長先生と呼ばれていた人は出口忠則さんという目利きの神様だった。今考えても不思議な縁で、宮川は出口さんにくっついて歩くようになった。他の人がセリ落とした後のマグロの尻尾をひっくり返したり、つまんでみたり、その色合いや感触を身体に焼き付けた。こうして、宮川はマグロの目利き名人への階段を少しずつ上り始めたのである。現在、宮川の名は東京の料理人の間にも轟き渡っている。宮川は言う。「出口さんに出会わなかったら今の自分はいません。今でも師匠にはとても敵わないです。時々天国から怒鳴り声が聞こえるようです。」
脂ではなく身質を追い続ける
セリは熾烈な戦いの場である。あっというまに敵に獲物をさらわれ、負けたやつは残り物に甘んじるしかない。そこで、冷静な判断を下すことは至難の技だ。どうしてもつい脂の乗ったものをあわてて追ってしまいがちだが、本当に大切なのは身質だ。見て、触って、揉んで、味わうこと。中でも身の照りはとても重要である。果物が熟してくると皮が薄くなり、内側から輝いてくるが、マグロも同じだ。
- マグロの尻尾の脂が多く含まれている
(と思われる)順に奥から並べられる
実際に照りを判断する際、セリ場には外の光が入らないため、どのマグロの身が輝いているのかわからない。暗闇の中で一瞬にして中の身質を判断できる熟練の技が必要である。500尾のマグロを見て、実際に入札するのはほんの1割程度。1尾も買わない日もある。上質のマグロをお納めできてお客様から感謝された時が最高の喜びだ。誰でも人に喜んでもらえた時はうれしいものだ。
- マグロの頭部はあまり流通していない貴重品
- 良い身質のマグロは輝いている
- 練消しゴムを練るようにマグロの身を揉む
目利きの仕事
「お客様に儲けてもらうこと、そして誇ってもらえるようなマグロをお納めすること。それではじめて商売が成り立ちます。父親には『人間は生まれてきたからにはそれぞれの役目がある。その役目を全うしろ!』とずっと言われてきました。今では、それがどういうことなのか、自分の役目は何なのか、少しくらいわかるようになりました。一生勉強ですね。」
きょうも、セリの熱気の中で、宮川のマグロに注がれるクールで鋭い眼力が三崎港の風景を威圧している。全身からは三崎港の「目利き名人」の強烈なオーラがほとばしる。
- 三崎港の早朝、湾のむこうには
富士山がそびえる
鮪問屋 「三崎まぐろ 魚徳」
〒230-0078
横浜市鶴見区岸谷3-4-29
TEL: 045-583-1014