2011/11/18
包丁製造のプロフェッショナル
株式会社 子の日 代表取締役 澤田裕介
- 株式会社 子の日
代表取締役 澤田裕介
伝統工芸士による和包丁から発展、日本から世界へ洋包丁を発信する包丁製造元 子の日(ねのひ)。神奈川県の小さな工房から生まれる珠玉の包丁たちと、包丁という道具にかける、熱い思いに触れる。
料理人のための包丁を追求し続ける
澤田氏の祖父は建具屋さん。常に〝のみ〟や〝かんな〟などに触れる職業、そして、道具を大切にする人だった。先代はそんな父の姿を見て育ち、〝ちゃんとした〟道具を使うことへのひとからならぬ思いを持って包丁の販売を始める。子の日という社名は、十二支の最初の日ということより〝初志貫徹〟の志が込められている。2代目である澤田氏は、自身も職人としての修行を続けながら、経営者としてメイド イン ジャパンの洋包丁の製作へ注力する。現在、海外への売上の8割は洋包丁が占めている。洋包丁の産地はヨーロッパが有名だが、実は切れ味にシビアな和包丁に親しんだ日本人ほど、〝切れる〟ということへのこだわりが強い。日本刀の流れを汲む伝統的技術を持った著名な鍛冶師と契約し和包丁を製作していたため、それに負けない位切れ味を持たせた洋包丁を、と生産に取り組むようになった。「プロの方のための包丁です。」と言って憚らない。「料理人の方が毎日使われて、いいか悪いかが全て」なのだと。
- 澤田氏によるスケッチ。
特注品は一つ一つ手書きでデザインする
「うちの商品は決して安いものではありません。しかし、使ってもらう人に必ず満足してもらうことを最大のコンセプトに包丁作りをしています。特に上位のモデルは、自分たちができる最高のものを作り上げてから価格を決めます。その分、妥協は一切していません。特注品はオーダーされる方によって完成形が全て違いますから、一本一本に非常に気を使っています。」大量生産とは一線を画す、希有の包丁製造元のこだわりとは。
良い包丁とは何か。
〝切れが長持ちする〟ことである
「どんな包丁でも、研げばある程度切れるようにはなります。しかし、うちの包丁は、例えば和食でふぐを扱う料理人の方が、3本の包丁を使って毎日メンテナンスをされていたとすると、それが1本で済むようになった、と言って頂きます。研ぎの手間も三分の一になったということで大変喜んでいただきました。どの様な使い方でも1日は必ず切れ味を持たせられるという自信があります。」と力強く語る。いわゆる〝なまくら〟な包丁ではないのだ。
- フラットな状態から、
注文主の手に沿うように形作られていく
切れが長持ちする包丁は、研ぐ回数が少なくなり、必然的に寿命も長くなる。これは、材料にこだわることはもちろんだが、それ以上に材料を〝だめにしない〟ことから生まれている。鋼はいいものほど硬いがもろい。特注品は全ての工程が手研ぎで仕上げられるなど、材料にストレスを掛けないように常に気が配られる。
そして、元より先が緩やかに絞ってあることも重要だ。徐々に徐々に細くなるラインをじっくりと観察しながら作業を進める。包丁は摩擦が減れば減る程良く切れる。それには包丁の面が真っ平ではだめで、少し丸みをつけて空気が入るスペースを持たせることで、すっと先が抜けるように滑らかな切れ味が生まれる。包丁のバランスも良くなる。
試せるものは全て試す
この研磨はこのベルトにしかできない仕事、平面を削るにはこのペーパーしかない、といったように、長年様々な道具を試行錯誤し、最高の一品を見つけてきた。生産段階によっては、精度の低い研磨剤の方が良い結果になる場合もある。最初から拒絶するのではなく、新しい道具も積極的に使ってみる。
「ファッション程大きい変化はなくても、時代が変われば包丁のニーズも変わります。最近はちょっと薄く、短めの傾向にあります。仕事が多様化し、一本でできるだけ賄えるような小回りの利くものが好まれているのだと思います。」
時代が変われば、その時に必要になるかもしれない、と、まずは受け入れてみる柔軟さも、澤田氏の大きな魅力の一つ。いい道具を作り出す人は、使う道具にも妥協しない。料理人にも通じる真理だ。現在新商品も考案中とのこと、世界中のシェフが、日本製の包丁を使う日も遠くないのかもしれない。
株式会社 子の日
本 社|〒259-1137 神奈川県足柄上郡中井町井ノ口2277-1
築地店|〒104-0045 東京都中央区築地4-10-5 1F
TEL|0465-43-7744 FAX|0465-80-3567
URL|http://www.nenohi.co.jp/
- [写真:右]ミルフィーユのような32層の鉄を手作業で叩き鍛えて作られる最高級の一品。等高線のような文様が入っているのが分かる(特注品)