2012/2/10
新調理システム機器を
理解し使いこなすために(1)
新調理システムとは何か?
講師
- 講師(株)スチコン塾 代表取締役 大関仁 氏
株式会社スチコン塾
代表取締役 大関 仁 氏
プロフィール:栃木県真岡市出身。飲食店勤務を経て、アルカントレーディング併設レストラン「トライアングル」料理長。味の素子会社アジレストランへ転職。ジェイアール東日本レストランへ出向、飲食店立ち上げの際、スチコンに出合う。(株)エフ・エム・アイで7年間コーポレートシェフを務め、コンサルタントとして独立。2000年レストラン「ラ・メゾン・ド・オオゼキ」開店。独自のノウハウ「冷却調理」を確立、8年後に閉店。スチコン調理研究のパイオニアとして活躍中。
スチームコンベクションオーブンをはじめとする新調理システムの機器は、何でもできる魔法の機械ではなく、使い手の理解が必要です。使いこなせれば、今までの課題が大きく解決することもありますが、動かすのはあくまでも職人である料理人です。
新調理システムとは何か?
初めに、新調理システムを構成する4つの調理法を見てみよう。メニューや提供時間に合わせて、これら4つの調理法を組み合わせる必要がある。
クックチル……加熱調理(芯温75度/1分)した食品を加熱後30分以内に冷却を開始し、90分以内に3度まで急速冷却し、保管、再加熱し、提供する調理システム。0~3度で保存したものは製造日を含み5日間の保存が可能。
クックフリーズ……加熱調理した食品を短時間にマイナス18度まで急速凍結し、提供時に最終加熱(再加熱)する調理システム。8週間の保存が可能。
真空調理……食材と調味料を特殊なフィルムの袋に入れて真空包装し、袋ごと低温加熱する調理システム。真空包装することにより、調味料が食材に浸み込みやすくなる。そのため味が向上し、加熱による目減りも少ない。製造日を含み7日間の保存が可能。
クックサーブ……調理後すぐに提供する方法。加工済み食品の再加熱、切りつけ、盛り付けや従来からの伝統的調理法がこれに含まれる。
真空調理法は、1974年にジャン・トロワグロ氏が、食肉加工業者のジョルジュ・プラリュ氏にフォアグラのテリーヌを作る際に歩留まりが悪く、40%も流出してしまうことを相談し、ジョルジュ氏が真空パックを使い、1979年に目減りをわずか5%にとどめたことから始まった。クックチルは、1963年に、スエーデンの北部のナッカという町の新規開業した大きな病院で、クックチルを本格的に導入したことが最初である。
新調理システムでは、スチームコンベクションオーブン、ブラストチラー、真空包装機が「三種の神器」として必要とされている。今回はスチームコンベクションオーブンについて見て行こう。
スチームコンベクション
オーブンはなぜ誕生したのか
新調理システムを飛躍的に伸ばしたのがスチームコンベクションオーブン、いわゆるスチコンだ。スチコンは、蒸す、焼く、煮るなどの加熱調理を1台で安全かつ確実にこなせる加熱調理機で、温度と時間の管理(T・T管理)を適切に行える。機械の進化と共に仕組みづくりがうまく行くようになった。なぜスチコンが生まれたのかを考えてみよう。
オーブンという箱の中で加熱調理する上での問題は、焼きムラだった。入口部分は開けたり閉めたりするので、温度が低く、焼きムラが起こる。手動で反転させたが、熱がうまく回らないため、コンベクション(対流)オーブンが生まれ、庫内の熱を対流させることでまんべんなく火が通るようになった。
しかし、高温の中で長時間加熱したり、熱したりすると、水分が蒸発し、食材がパサパサになってしまう。そこで熱風だけでなく、蒸気を介在させることで、食材の水分を抑えることに成功したのだ。また蒸気は熱伝導が早いが、空気は熱伝導が遅いという特徴もうまく利用している。
サウナを想像してみよう。サウナ内の温度は97度でも10分~15分入れる。これは蒸気を介在させているからだ。これは蒸気を介在させているからだ。お風呂は40度前後でないと入れない。このことから、蒸気と空気の熱伝導の差が分かる。水が100度になる時のエネルギーは100キロカロリー。沸騰する熱さで蒸気に変えている。蒸気は水の約5倍のカロリーを持っており、蒸気になると、539キロカロリーになる。蒸気によって熱伝導が早く、仕上がりも良くなるのだ。
スチコンが生まれたのは1976年、ドイツの展示会でラショナル・ドイツのコンビ・オーブン・スチーマーが発表された。日本では、1988年にラショナルのスチコンをフジマックが販売し、エフ・エム・アイがコンボテルムのコンボスターを販売した。100度以上の庫内に蒸気を入れることで蒸気が気化し、熱容量の大きい飽和蒸気となり湿度が高まる。これが食材に様々なメリットを生み出す。
- Rational Japan
- FMI
- tanico
- Maruzen
スチコンの最大のポイントはコンビモード
(蒸気×熱風)
蒸気と熱風をコントロールする「コンビモード」がスチームコンベクションオーブンの最大のポイントだ。食材を加熱するには時間がかかる。時間が経てば水分がとられ過ぎてしまう。温度が高ければ焦げてしまう。肉、魚などの高温調理では、旨味、水分などが逃げやすく、固くなりやすいが、コンビネーションモードではこれらを抑えながら加熱することができる。これがボリュームロスの低減や、ソフトな食感につながる。表面が乾燥しにくく、熱容量が大きいため、熱風調理よりも加熱時間を短縮できる。
例えば、ローストポークを作る時に、下にミルポア野菜を敷くのは、皆さんやってきているはずだ。オーブンの中で220度で加熱すると、野菜からは水分、つまり、蒸気が出てくる。その考え方を踏襲したのがコンビモードだ。ローストは何の目的なのか、油をかけるオイリングは何の目的なのかを考えながら調理をすると、様々なことが見えてくる。
庫内で複数同時調理をしても匂い移りがない
スチコンの中には、飽和蒸気が詰まっている。飽和蒸気とは、液体が蒸発する過程で液体がまったくなくなり、蒸気だけになった瞬間の状態のことを言う。温度は沸騰点と同様で、水分が表に出にくくする働きを持つ。スチコンは、この飽和蒸気によって熱を伝えている。
様々な食材を同時に入れて調理をしても匂い移りがないのは、スチコンの中で加熱調理するとそれぞれの食材が飽和蒸気に包まれるからだ。例えば、サバの味噌煮、切干大根それぞれを飽和蒸気が包みこみ、香りや風味を外に逃がさない。
スチコンには、庫内の蒸気を瞬時に入れ替えるシステムが搭載されている。ラショナルに代表されるオープンシステムの場合、クエッチングシステムと呼ばれる仕組みである。飽和蒸気を作り出すと、庫内の密度が濃く、圧力が高くなるので、排水口から蒸気が逃げにくくなる。排水口の中の蒸気に水を噴射すると温度が下がり、蒸気が逃げる。その分だけ新たに送り出す。コンボスターに代表される水で蓋をするクローズドシステム(ウォーターバスシステムともいう)は、下部のコンデンサー部分を水で満たし、オーブン庫内を密閉空間にすることにより、庫内圧力を大気圧より高め、スチームの最高温度を98度まで上昇させることが可能になる。蒸気の充満度が高ければ高いほど比熱が大きくなり、食材に素早く熱が伝達される。
日本で購入できるスチコンメーカーは現在15社ある。その中でもオープンシステムとクローズドシステムに分かれ、ラショナル、タニコーがオープンシステム、コンボスター、マルゼンがクローズドシステムを搭載している。購入前には各社のテストキッチンで少なくとも全段を使用した調理をおこない、目的にあった調理ができるか試してみよう。
大関仁氏からのメッセージ
私は、40年近い料理人人生の中で、半分くらいは、ただ、おいしいものを作れば良いと思っていました。味の素株式会社のグループ会社のアジレストランからジェイアール東日本レストランに出向し、レストランの開発をした際にスチームコンベクションオーブンに出合いました。調理に携わったことのない人が料理を作るための仕組みを作る際、調理理論が欠かせなかったのです。エフ・エム・アイのコーポレートシェフを担う中で、スチコンの理論を学んだ後に独立し、自分で店を持ちながら様々な実験をし、コンサルタントとしてそこで得たことを皆さんにお伝えしてきました。現在は、栄養士と調理師のサポートをすることをライフワークにしようと思っています。